対馬の樹


WEBサイト『対馬の樹』より
by tsushimanoki
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WEBサイト『対馬の樹』のコンテンツ「対馬のこと」をご紹介しています。皆様のご意見やご感想をお待ちしています。
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清話会様への原稿⑧ 対馬のお盆

清話会様のメールニュースの原稿をアップしました。お時間のある方はどうぞお付き合いください。

<清話会について>
中小企業向けに情報誌を発行したり、講演会やセミナーなどを開催している、東京に本社を置く会社(昭和13年創業)が運営する会員団体。清話会では、全国各地の中小企業の経営者約3000人に対し、週に2回程度メールニュースを発行されていています。このメールニュースに、月に1回、執筆させていただいています。
■清話会WEBサイト http://www.seiwakai.com/

◇対馬のお盆

いよいよ8月も最後の週となりました。今年の夏は、あまり夏らしくないお天気ばかりで、大雨による災害、農作物の収穫量減少、清涼飲料水の売り上げ低迷など、気分がめいるようなニュースが続きました。私自身も、海のレジャーを楽しむこともなく、何となく気持ちが盛り上がらないまま夏を終えようとしています。

さて、お盆はいかがお過ごしでしたでしょうか?私は対馬に帰省しました。日本各地で様々なお盆の風習があるかと思いますが、民俗学的宝庫である対馬にも独特な風習が残ります。今回は、私の実家のある美津島町尾崎地区のお盆についてご紹介させていただきます。(同じ対馬の中でも、地区によって少しずつ風習が異なります)。

実家では(対馬の多くの家でもそうですが)、12日から15日にかけて、普段の仏壇とは別に、お座敷の床の間に立派な御棚(みたな)を用意します。この御棚には赤い刺繍が施された金色の布が張りめぐらされ、そばにはいくつもの提灯や行燈が添えられ、普段とは全く違ったゴージャスな雰囲気が醸し出されます。

お盆の間は、線香をあげるだけでなく、お米もひとつまみあげるようになっていて、御棚の前に置かれた台の上には、線香やろうそくなどと共に、サトイモの葉、米、「めんどう」(学名:メドハギ)の小枝が添えられた水入れが並びます。米をサトイモの葉の上にぱらぱらとまいて、そこへ小枝の先の葉っぱに含ませた水滴を散らします。子どもの頃はこれがやりたいがために、何度も御棚の前に座っていました。(今でも、ちょっと面白いなぁと思います)。

12日から14日の夕方は、ご先祖様を迎えるために、玄関先で「迎え火」を焚きます。「こえまつ」と呼ばれる、油分たっぷりの枯れたアカマツの根っこの部分を使うのですが、よく燃え上がり、特有のいい香りが漂います。この香りをかぐと、「ああ、お盆だなぁ」と感じます。また、「ご先祖様が迷わんようにね」と大人たちが教えてくれたことも思い出されます。

お盆ならではの変わったお供え物もあります。12日の夜は直径2.5センチくらいの「おてつきだんご」、14日の朝には直径1センチくらいの「ちゃのこだんご」と呼ばれる、お砂糖で甘く味付けをした扁平な白玉団子をお供えします。また、13日と15日は、サルトリイバラの葉を添えたあんこ入りの丸いお饅頭「ちまき」を作ってお供えします。(笹を使った端午の節句の「ちまき」とはずいぶん異なります)。曾祖母が生きていた頃までは、別棟の炊き場で大きなせいろを使って大量に作り、子どもたちや焼香に見えた方にもふるまっていました。

正直に言うと、食糧難の時代でもないので、毎日毎日出される「ちまき」に辟易としていて、他のおやつが食べたいと思っていました。そんな風にあまりありがたがられなくなったこともあるのでしょう、今では「ちまき」を手作りする家庭は少なくなり、いただきものや市販のもので済ませることが増えました。私の実家もお隣のおばちゃんからいただいたものを使っています。この他、「かがみ」と呼ばれる角切りのところてんもお供えします。こういったお供え物は、ご先祖様の霊が一緒に連れてきた供養されていない別の霊へ捧げるものだと言われています。

そして15日の夜、いよいよ「精霊流し(しょうろうながし)」(初盆のお宅のみ)と「送り火」です。長崎の「精霊流し」はたいへん有名ですが、対馬でも同じように、色とりどりの提灯をともし、故人が好きだった食べ物などを乗せた木製の船を海に流します。長崎ほど賑やかではありませんが、漁船で沖まで運び、打ち上げ花火を上げながら、船を流します。今は、そのまま流すのではなく、しばらくたったら回収しています。昔は回収しなかったので、後日、岸に打ち上げられ、それに乗って遊んだことがありました。

「送り火」は、集落の目の前の海にぐるりと巡らされている、腰の高さくらいのコンクリート岸壁の上で、それぞれが自宅の前で焚きます。「迎え火」と同じく「こえまつ」を使い、傍らにはお線香や鈴も用意します。10時くらいからぽつりぽつりと明かりが灯り始め、小さな港に数十のオレンジの小さな光が揺らめき、地区の人たちがお互いに焼香に回り、普段はとても静かな漁村が少しだけ賑わいます。「送り火」を終える際、ご先祖様へのおみやげを海の中に投げ入れます。おみやげは、家で採れた小ぶりな野菜を数種類と「つえぢまき」と呼ばれるアカメガシワの葉でくるまれた小ぶりな「ちまき」を6つ。ご先祖様があの世に戻る際、杖の役割を果たすようにと、アカメガシワの長い茎がついています。地区によっては「つえぢまき」ではなく、クリ・タラの木の花・ゴンズイの実を添えるところもあるようです。

今回、改めて、たくさんのこまごまとした決まりごとがあるのだなぁと思いました。実に非合理的で面倒臭いことだらけです。しかし、こういった決まりごとを進めながら、とても自然に、会うことのできない故人と心の中で会話をしたり、自分たちのご先祖様以外にも思いを巡らせることができます。日本各地で行われているお盆の風習には、即物的な思考に陥りがちな私たちを立ち止まらせてくれる力があるのではないかと思います。

□対馬の樹 http://www.tsushimanoki.net
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by tsushimanoki | 2009-08-25 14:11
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