人気ブログランキング | 話題のタグを見る

対馬の樹


WEBサイト『対馬の樹』より
by tsushimanoki
このブログについて
WEBサイト『対馬の樹』のコンテンツ「対馬のこと」をご紹介しています。皆様のご意見やご感想をお待ちしています。
以前の記事
お気に入りブログ
検索
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧

清話会様への原稿③「にほんの里100選」に想うこと

清話会様のメールニュースの原稿をアップしました。お時間のある方はどうぞお付き合いください。参考資料の長崎新聞連載「廃れゆく赤米神事」(平成21年1月25日~2月3日)については、対馬市役所の山内輝幸さんよりご提供いただきました。いつもいつも本当にありがとうございます!

<清話会について>
中小企業向けに情報誌を発行したり、講演会やセミナーなどを開催している、東京に本社を置く会社(昭和13年創業)が運営する会員団体。清話会では、全国各地の中小企業の経営者約3000人に対し、週に2回程度メールニュースを発行されていています。このメールニュースに、月に1回、執筆させていただいています。
■清話会WEBサイト http://www.seiwakai.com/


◇「にほんの里100選」に想うこと

皆様の暮らす街の桜はいかがでしょうか?お花見には行かれましたか?福岡の桜はピークを過ぎ、はらはらと散り始めています。3月最終日曜日の29日、桜の名所「西公園」はたくさんの人で賑わっていました。私は数名の友人と、お花見弁当とお酒を愉しみました。(まだ夜は冷え込むため、持参していたカセットコンロで淹れた熱々のお煎茶が喜ばれました。暖をとるものがあると、それを囲んで話もはずむような気がします)。

さて、3回目の今回は、今年1月に「にほんの里100選」(朝日新聞創刊130周年記念事業・森林文化協会創立30周年記念事業)に選ばれた、対馬最南端の集落、対馬市厳原(いづはら)町豆酘(つつ)についてお話しさせていただきます。今年早々のこの明るいニュースは、対馬在住者や出身者の間でちょっとした話題となり、私もそうですが、たくさんの人が嬉しい気持ちになりました。

「にほんの里100選」の対象となった里は、「集落とその周辺の田畑や草地、海辺や水辺、里山などの自然からなる地域。広さにかかわらず、人の営みがつくった景観がひとまとまりになった地域」。2008年1月~3月にかけて候補地の募集をしたところ、4,474件の応募があり、候補地は2,000件以上に達しました。この中から絞り込まれた400地点について、「景観」「生物多様性」「人の営み」を基準に現地調査され、さらに絞り込まれた150地点について、山田洋次監督が審査委員長を務める選定委員会にはかられ、100の里が選ばれました。(関東では、東京都町田市の「小野路(おのじ)」、神奈川県相模原市の「藤野町佐野川」など、関西では、京都府伊根町の「伊根湾の舟屋群」、大阪府能勢町の「長谷(ながたに)」など)。

対馬市厳原(いづはら)町の豆酘(つつ)については、「赤米の神事を継承/島最南端の集落。海士(あま)による潜水漁や赤米の栽培・神事など、古い文化を残す。里山を利用した養蜂や在来種ソバの栽培も盛ん」と紹介されています。さらに言うと、山や川や海の精霊達が登場する民話が語りつがれ、赤米神事の他にも古代中国で始まった亀甲を使った占い「亀ト(きぼく)」が細々と伝わる、対馬でも特殊な地域です。しかし、少子高齢化が進み、いずれも継承していくのは非常に困難な状況にあります。特に、国選択無形民俗文化財にも指定されているこの赤米神事は、赤米の栽培と年に10回もの行事があって手間もお金もかかり、さらに限られた人にしかできないという制約もあり、今は1軒の家の方によって何とか持ちこたえているとういう状態です。

豆酘(つつ)は「稲作伝来の地」とされ、千数百年前より古代米の赤米を栽培し、赤米をご神体として崇める赤米神事が伝えられてきました。(米と蕎麦は対馬を経由して日本に広まったとされています)。「頭仲間(とうなかま)」と呼ばれる家の人が、毎年持ち回りで赤米を作り、収穫した種もみを俵に詰めてご神体とし、秋から翌年の田植え前まで座敷の天井につるして奉ります。毎年2月の夜更けに行われている、ご神体の米俵を次の当番に渡す「赤米の神渡り」という神事のクライマックスでは、裃を身に着けた人々が集い、松明の灯りのもと、次の当番の家に米俵が運ばれます。しかし、昭和30年代まで20軒前後あった「頭仲間(とうなかま)」は平成18年には2軒にまで減ってしまい、そして平成21年の現在、残るはたった1軒となってしまいました。そのため、この「赤米の神渡り」は、米俵を運び出してはまた同じ家におさめるという、形式的なものとなってしまいました。

「頭仲間(とうなかま)」には、「神俵を受けずに頭仲間を辞めると不幸が起きる」という言い伝えがあり、辞める際には誰もが大きな葛藤と苦悩を抱えてしまうそうです。こういう言い伝えなどは、科学万能的な発想からしてみれば、非合理的でバカらしいものとされるかもしれません。とはいえ、長きにわたって伝承されてきた神事が、たったこの数十年の間に姿を消そうとしてしまっているというのは、求めていたはずの幸せな暮らしの姿とは言えないと思います。手間暇かかるわ、お金もかかるわ、それに脅し文句のような言葉もつきまとうわ、面倒でこの上ないことと一蹴するのは簡単ですが、なかなかそんな風にすっきりと割り切れないのが人の心かと思います。このような行事が伝承されているということは、その土地の人たちの心がリッチであることの証でもあるのではないかと思います。

「にほんの里100選」の取り組みは、「本来はこうあったほうがいいんじゃないだろうか?」というあるべき人の心の部分を再生させようとする取り組みのような気がしています。絶滅の危機に追い込まれているツシマヤマネコを守る取り組みにも通じるものがあると感じます。今回、この「にほんの里100選」に豆酘(つつ)が選ばれたのは、風前の灯のような赤米神事について、一部の人たちだけではなく、皆で考えましょうよという機会を与えてくれたのではないかと思います。私の個人的、希望的な締めくくりになってしまいますが、ぜひそういう気運がこれから出てくればなと思います。

参考資料:長崎新聞連載「廃れゆく赤米神事」(平成21年1月25日~2月3日)
■「にほんの里100選」のWEBサイト http://www.sato100.com/index.html

□対馬の樹 http://www.tsushimanoki.net

by tsushimanoki | 2009-03-31 12:02
<< 今日から対馬 出会いと別れ…、対馬野生生物保... >>